キャリアコンサルタント試験の受験生にとって、逐語録の作成やロールプレイングは重要な対策の一つです。特に、傾聴技法を活用した適切な伝え返しや共感の技術は、相談者との信頼関係を築くために欠かせません。この記事では、逐語録事例シリーズ第3回として、管理職として部下への仕事の任せ方に悩む相談者との面談例を紹介しつつ、実際に使える合いの手や傾聴技法について解説します。試験対策の実践として、ぜひご活用ください。
42歳男性、課長職、部下への仕事の任せ方に悩むケース
相談者プロフィール
- 相談者(CL):42歳男性、メーカー勤務、今年から課長に昇進、部下は5名
- 相談内容:部下に仕事を任せられず、自分で抱え込んでしまう
CC:本日はどのようなお悩みについてお話しいただけますか?
CL:今年から課長になったのですが、部下に仕事を任せることがうまくできなくて悩んでいます。結局、自分で抱え込んでしまうんです。
CC:「部下に仕事を任せることがうまくできず、自分で抱え込んでしまう」、この点について具体的にお聞きしてもよろしいですか?
CL:はい。部下に頼むと、どうしても仕上がりが自分の思うレベルに届かないことが多くて。結局、自分でやり直した方が早いと思ってしまうんです。
CC:任せた仕事の仕上がりが期待通りにならないことが多く、ご自身でやり直した方が早いと感じている、ということですね。
CL:そうなんです。特に大事な取引先向けの資料などは、失敗できないというプレッシャーもあって、なかなか任せられません。
CC:大事な仕事ほど失敗できないというプレッシャーを感じているんですね。その結果、抱え込む仕事量が増えている、ということでしょうか?
CL:まさにその通りです。最近は残業も増えていて、正直このままでは体力的にも厳しいなと感じています。
CC:業務量の増加によって、ご自身の負担が大きくなっているのですね。周りの部下の方々は、今の状況についてどう感じていると思われますか?
CL:正直、あまりわかっていないかもしれません。部下からすると「課長は自分たちを信頼していないのかな」と思われているんじゃないかと、ちょっと不安になることもあります。
CC:部下の方々からの見え方も気にされているんですね。「信頼していないと思われるのでは」という不安があるということですが、実際にそう感じたきっかけなどはありましたか?
CL:一度、部下に「もっと仕事を振ってほしい」と言われたことがあって。その時、正直ドキッとしました。自分では気を遣っているつもりだったので。
CC:部下の方から直接そう言われたことで、ご自身の考えと部下の受け止め方にギャップがあることに気づかれたんですね。
CL:はい。頭ではわかっているんです。任せた方が部下も成長するし、自分も楽になる。でも、いざとなると不安が先に立ってしまって。
CC:頭では理解していても、実際に任せる場面になると不安が先立ってしまう、というお気持ちなんですね。その不安は、具体的にはどんなことに対する不安でしょうか?
CL:失敗して取引先に迷惑をかけたらどうしよう、という不安が一番大きいです。あとは、自分が楽をしているように周りから見られるんじゃないか、という気持ちもあります。
CC:取引先への影響への不安と、周囲からの評価に対する不安、この2つがあるんですね。もし部下に仕事を任せて、うまくいったとしたら、どんな変化があると思いますか?
CL:部下も自信がつくでしょうし、自分の時間もできて、もっと先のことを考える余裕が持てるかもしれません。
CC:部下の成長と、ご自身の時間的な余裕、両方の変化を期待されているんですね。少しずつでも、任せる範囲を広げていくとしたら、どんなところから始められそうですか?
CL:そうですね…。まずは重要度がそこまで高くない仕事から、少しずつ任せてみるのはいいかもしれません。
CC:重要度の低い仕事から少しずつ任せていく、というのは現実的な一歩ですね。その際、部下の方に安心して取り組んでもらうために、どんな工夫ができそうでしょうか?
CL:途中で一度、確認のタイミングを設けるとか…。任せきりにするんじゃなくて、要所要所でフォローする形にすれば、自分も安心できるかもしれません。
CC:任せきりにするのではなく、要所要所でフォローする形を取ることで、ご自身も安心して任せられそうだというお考えですね。
CL:はい。それなら、少し試してみようかなという気持ちになってきました。
CC:今日お話しする中で、ご自身なりの一歩が見えてきたようですね。次回、実際に試してみてどうだったか、ぜひ聞かせてください。
CL:ありがとうございます。まずはやってみます。
逐語録事例の解説
CC:本日はどのようなお悩みについてお話しいただけますか?
CL:今年から課長になったのですが、部下に仕事を任せることがうまくできなくて悩んでいます。結局、自分で抱え込んでしまうんです。
CC:「部下に仕事を任せることがうまくできず、自分で抱え込んでしまう」、この点について具体的にお聞きしてもよろしいですか?
解説:相談の冒頭でクライアントの発言をそのままオウム返しし、話を深掘りする許可を取っています。いきなり自分の解釈を挟まず、まずクライアントの言葉をそのまま受け止める姿勢が、信頼関係構築の第一歩になります。
CL:そうなんです。特に大事な取引先向けの資料などは、失敗できないというプレッシャーもあって、なかなか任せられません。
CC:大事な仕事ほど失敗できないというプレッシャーを感じているんですね。その結果、抱え込む仕事量が増えている、ということでしょうか?
解説:クライアントの感情(プレッシャー)を言語化して伝え返したうえで、状況(業務量の増加)へと自然に話をつなげています。感情への共感と、事実確認を1つの応答の中でバランスよく行っている例です。
CL:一度、部下に「もっと仕事を振ってほしい」と言われたことがあって。その時、正直ドキッとしました。自分では気を遣っているつもりだったので。
CC:部下の方から直接そう言われたことで、ご自身の考えと部下の受け止め方にギャップがあることに気づかれたんですね。
解説:クライアント自身がまだはっきりと言語化していない**「気づき」を言葉にして返す**、高度な伝え返しの例です。単なる事実の繰り返しではなく、クライアントの体験の意味を汲み取って言語化することで、内省を深める効果があります。
CC:もし部下に仕事を任せて、うまくいったとしたら、どんな変化があると思いますか?
解説:現在の悩みだけでなく、「うまくいった未来」を想像してもらう質問を投げかけています。問題志向から解決志向へと視点を切り替える質問技法で、クライアントが前向きな行動をイメージしやすくなる効果があります。
CC:少しずつでも、任せる範囲を広げていくとしたら、どんなところから始められそうですか?
解説:抽象的な希望を、具体的な行動レベルにまで落とし込む質問です。「任せられるようになりたい」という漠然とした思いを、「まず何から始めるか」という実行可能なステップへと導いています。
逐語録のポイント
- オウム返し・伝え返しによる信頼関係の構築 クライアントの言葉や感情を正確に受け止め、丁寧に返すことで、安心して話せる場をつくります。
- クライアント自身が気づいていない感覚の言語化 「気を遣っているつもりが、部下にはそう伝わっていなかった」というギャップに気づかせる伝え返しは、内省を深める上で効果的です。
- 未来志向の質問で行動を引き出す 「うまくいったらどうなるか」「どこから始められそうか」といった質問で、具体的な次の一歩を相談者自身の言葉で引き出しています。
傾聴技法の実践で効果的な逐語録の作成
管理職の相談は、キャリアコンサルタント試験でも頻出のテーマです。今回のケースのように、「頭では理解しているが、行動に移せない」というクライアントに対しては、無理に助言するのではなく、クライアント自身の言葉で気づきや次の一歩を語ってもらうことが重要です。この逐語録の事例が、皆さまの試験対策に少しでも役立つことを願っています。

