かつて大阪が挑んだ「大阪都構想」は、2度の住民投票で惜しくも否決されました。
しかし、その理念――「大阪をひとつにし、成長する都市へ」が消えたわけではありません。
今、その志を形を変えて引き継いでいるのが「大阪副都心構想」です。
行政の仕組みを変える“制度改革”から、都市の形を変える“街づくり”へ。
なぜ大阪は方向転換したのか? そして副都心構想が目指す「多極型・成長都市」の姿とは?
本記事では、「大阪都構想」から「副都心構想」への変遷と、その背景、狙いをわかりやすく解説します。


大阪都構想とは?
「大阪都構想(おおさかとこうそう)」とは、大阪市を廃止し複数の特別区に再編するという行政改革の構想です。
狙いは、大阪府と大阪市の二重行政をなくし、都市経営を一元化すること。
大阪では府と市が別々に病院・大学・交通政策などを進めており、重複による無駄や意思決定の遅れが問題視されていました。
その解決策として、「東京のような特別区制度」を導入しようとしたのが都構想の骨子です。
この構想は橋下徹氏(当時大阪市長)や大阪維新の会が中心となって推進し、大阪を副首都として成長させるための制度改革として注目を集めました。
2度の住民投票で否決された理由
大阪都構想は、2015年と2020年の2度にわたり住民投票にかけられましたが、どちらもわずかな差で否決されました。
| 実施年 | 賛成 | 反対 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 2015年 | 49.62% | 50.38% | 否決 |
| 2020年 | 49.38% | 50.62% | 否決 |
反対がわずかに上回り、「大阪都構想」は実現しませんでした。
反対の理由としては、
- 「大阪市」という名称と自治がなくなる不安
- 区割りや財政配分の仕組みが複雑
- 制度変更による生活への影響が見えにくい
- 政治的な対立による混乱
などが挙げられます。
市民の多くは改革の必要性を理解していたものの、制度を変えるリスクに慎重な姿勢を見せた形です。
否決後も続いた“大阪改革”
都構想の否決を受けても、日本維新の会や大阪維新の会は「大阪を成長させる」という理念を捨てませんでした。
彼らが目指していたのは、大阪全体を一体化し、東京に次ぐ都市圏をつくること。
ただし、「制度」を変えることには市民の抵抗が強かったため、次に掲げたのは街そのものの構造を変える新しい戦略でした。
それが――
「大阪副都心構想(おおさかふくとしんこうそう)」です。
大阪副都心構想とは?
大阪副都心構想は、梅田に集中する都市機能を分散し、複数の副都心を育てて大阪全体を活性化させる構想です。
「行政制度を変える」都構想に対し、「都市の形を変える」副都心構想といえます。
副都心として開発が進む主な地域は以下の通りです。
| 地域 | 主な役割・特徴 |
|---|---|
| 梅田 | 既存の中心地。交通・経済のハブ。 |
| なんば・天王寺 | 商業・観光の中心、南大阪のゲートウェイ。 |
| 中之島・北浜 | 官庁・医療・学術機関の集積地。 |
| 新大阪 | 新幹線・空港アクセスの要。ビジネス拠点。 |
| 夢洲(ゆめしま) | 万博・IR(統合型リゾート)開発で注目。 |
大阪府と市はこれらの地域を連携させ、「多極型ネットワーク都市」としての発展を目指しています。
なぜ方向転換したのか?
制度改革から“実利”改革へ
住民投票で見えたのは、「制度より生活に直結する成果を求める市民の声」。
そのため維新は、制度改革から都市開発へシフトし、交通・雇用・観光といった“実感できる改革”を優先するようになりました。
万博・IRで加速する再開発
2025年の大阪・関西万博(夢洲)や、IR(統合型リゾート)開発計画によって、大阪湾岸エリアが再注目されています。
これらを副都心構想の核と位置づけ、国際競争力を高める都市戦略として推進中です。
市民の納得感を得やすい形へ
都構想は「大阪市がなくなる」という心理的ハードルが大きかったのに対し、副都心構想は現行制度のままで実施可能。
住民投票を必要とせず、市民の理解と支持を得やすいことも方向転換の理由です。
都構想の理念は「副都心構想」に受け継がれている
実は、都構想と副都心構想の根底には共通点があります。
| 比較項目 | 大阪都構想 | 大阪副都心構想 |
|---|---|---|
| 改革の対象 | 行政制度 | 都市構造 |
| 目的 | 府市一体化・二重行政の解消 | 梅田一極集中の是正 |
| 手段 | 特別区設置・制度改編 | 再開発・交通整備・経済連携 |
| 影響範囲 | 行政・政治中心 | 市民生活・経済中心 |
| 実施方法 | 住民投票が必要 | 政策実行ベースで可能 |
つまり、都構想の「理念」を現実的な街づくりに落とし込んだのが副都心構想です。
方向性は変わっても、「大阪を一体化して成長させる」という目標は一貫しています。
今後の展望と課題
副都心構想の実現には、いくつかの課題も残されています。
- 鉄道・道路などインフラ整備の遅れ
- 民間投資を呼び込むための都市デザイン
- 万博後の夢洲エリア活用
- 府と市の連携維持
これらを乗り越えれば、大阪は「東京一極集中」に対抗する新たな都市モデルを築くことができるでしょう。
まとめ:制度から街へ、改革の形が変わっただけ
「大阪都構想」は行政制度を変える挑戦、
「大阪副都心構想」は都市の形を変える挑戦。
その目的は同じ――
「大阪を再び日本の成長エンジンにする」こと。
都構想が否決された今も、改革の火は消えていません。
副都心構想は、市民が実感できるかたちで大阪の未来を変える“次のステージ”なのです。



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