「夢を語れば人は動く」
多くの経営論やマネジメント本がそう説くなか、サイバーエージェント創業者・藤田晋氏は、真逆の考え方を示してきました。
藤田氏が一貫して語るのは、夢や理想は人を動かす原動力にはなりにくいという現実です。
では、何が人を本気で動かすのか。
その答えが、藤田氏独自の表現である「下から火で炙るマネジメント」でした。


サイバーエージェント創業期と“ダメ社員”だった副社長の存在
サイバーエージェントは1998年、藤田晋氏が24歳で創業しました。
当時、一緒に起業したのが現在の副社長・日高裕介氏です。
今でこそ同社の主力であるゲーム事業をゼロから立ち上げた立役者ですが、起業前の日高氏は社内評価が低く、「仕事ができない社員」と見なされていました。
営業職として配属されながら成果が出ず、外回り中にサボることも多かったといいます。
藤田氏自身は社内で注目される存在だっただけに、同期でも評価は対照的でした。
それでも藤田氏は、日高氏の潜在能力を見抜き、起業に誘います。
この判断が、後のサイバーエージェント成長の大きな分岐点となりました。
「褒めない」「夢を語らない」下から火で炙るマネジメント
藤田氏が日高氏に対して行ってきたのは、一般的な「ビジョン共有型マネジメント」ではありません。
仕事に余裕が出て気が緩みそうなときはあえて強く追い込む。
逆に、精神的に限界が近づいていると感じたら火を弱める。
この「強火と弱火を使い分ける」感覚を、藤田氏は
「下から火で炙っていた」
と表現します。
重要なのは、上から理想を語るのではなく、
逃げられない現実・責任・プレッシャーを下から与えることでした。
藤田晋自身も「放っておくと堕落する人間」
興味深いのは、藤田氏自身もこのマネジメントを自分に対して使っている点です。
ゲーム、漫画、小説、映画、スポーツ観戦が大好きで、
放っておけば楽な方へ流れてしまう性格だと本人は語ります。
だからこそ藤田氏は、
- 大きな発言をして後戻りできない状況をつくる
- 多額の投資を先に行う
- 多くの人を巻き込み「失敗できない立場」に自分を置く
といった方法で、意図的に自分を追い込んできました。
夢にワクワクして頑張るのではなく、
「迷惑をかけられない」「負けられない」という状況が、自分を動かしてきたというのです。
なぜ「夢」では乗り越えられないのか
藤田氏が夢や理想を重視しない理由は明確です。
- 苦しいときに夢は簡単に揺らぐ
- 本当の修羅場では理想論は支えにならない
- 豊かな時代では「もっと欲しい」という欲求が弱い
特に現代は、生活がある程度満たされているため、
「成功したら〇〇が手に入る」という報酬型の動機づけが効きにくい時代だと指摘します。
「悲劇感を揺さぶれ」黒田剛監督の言葉との共鳴
藤田氏が強く共感した言葉が、FC町田ゼルビアの黒田剛監督の
「悲劇感を揺さぶれ」
という表現でした。
例えば若い選手たちは、
- 「優勝したら100万円もらえる」
→ そこまで必死にならない - 「優勝を逃したら全員で100万円払う」
→ 急に本気になる
これはZ世代に限らず、藤田氏自身を含めた多くの世代に共通する心理です。
得をしたいよりも、迷惑をかけたくない・失いたくない
この感情の方が、人を強く動かすというわけです。
25年以上続いた結果が「今のサイバーエージェント」
サイバーエージェントは、
- 売上高:約8000億円
- 社員数:約8000人
という規模にまで成長しました。
その原動力は、
「夢を語る会社」ではなく、
「責任と緊張感が常に足元にある組織」だったと言えます。
人事制度や評価制度にも、この“悲劇感”の考え方が組み込まれ、
社員が「本気にならざるを得ない構造」が作られてきました。
まとめ|人を動かすのは理想より「失いたくない現実」
藤田晋氏のマネジメントが示しているのは、シンプルな真理です。
- 人は夢では長く走れない
- だが、責任と現実からは逃げにくい
- 「下からの圧力」は継続的な推進力になる
これは厳しい方法に見えますが、
現実的で、再現性の高いマネジメントでもあります。
「どうすれば人は本気になるのか」
その問いに対し、藤田晋氏は25年以上の実践で、ひとつの答えを示してきたのです。


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