― 麻薬ではなく「エネルギーと地政学」が核心 ―
トランプ米政権によるベネズエラへの軍事的圧力は、表向きは「麻薬対策」や「治安維持」を理由としています。しかし、実態を俯瞰すると、その背景にはエネルギー資源と米国の覇権維持という、より大きな戦略的意図が見えてきます。


表向きの理由:麻薬対策
米国はこれまで、ベネズエラへの介入を「麻薬カルテル対策」や「フェンタニル問題」と結びつけて説明してきました。
ただし、米政府機関自身のデータによれば、
- ベネズエラはフェンタニルの主要供給国ではない
- フェンタニルの多くはメキシコで製造され、原料は中国・インド由来
- 米国内で摘発されるフェンタニル関連犯罪の大半は米国市民が関与
とされており、「フェンタニル対策」が軍事行動の直接的理由とは言い難いのが実情です。
本質的な理由①:米州支配を重視する「新モンロー主義」
トランプ政権は2025年、19世紀のモンロー主義を現代版として復活させました。
これは「西半球(米州)への域外大国の介入を排除する」という考え方で、近年は「トランプ補論」や「ドンロー主義」とも呼ばれています。
この視点から見ると、
- ベネズエラが中国・ロシア・イランと関係を深めている
- 石油輸出の多くが中国向けに流れている
という状況は、米国の影響圏を脅かす存在と映ります。
ベネズエラへの圧力は、米州における米国の主導権を再確認する行動とも解釈できます。
本質的な理由②:世界最大級の石油資源
ベネズエラは、
- 確認埋蔵量 約3030億バレル
- 世界最大の石油埋蔵国
という圧倒的な資源国です。
制裁下にあるにもかかわらず、原油は割引価格で中国などに流れ続けており、米国にとっては「戦略資源が競合国に渡っている」状態といえます。
本質的な理由③:ディーゼル燃料という「世界経済の生命線」
ベネズエラ産原油の特徴は、重質・高硫黄の重質原油であることです。
この原油は精製が難しい一方で、
- ディーゼル燃料の生産に不可欠
- トラック、船舶、農業、鉱山など基幹産業を支える
という重要な役割を持ちます。
近年、ディーゼル燃料(中間留分)は世界的に在庫が逼迫しており、供給が滞れば、
- 物流コスト上昇
- 食料・日用品価格の上昇
- インフレ加速
といった連鎖が起きやすい状況にあります。
ベネズエラの石油輸出を巡る緊張は、世界経済全体に影響を与えかねない要素なのです。
なぜ「今」だったのか
まとめると、タイミングの背景には以下が重なっています。
- 中国・ロシアの中南米への影響力拡大
- 世界的なディーゼル燃料不足
- 米国がエネルギーと地政学の主導権を再確認したい局面
トランプ政権にとって、ベネズエラは「弱体化したが戦略的価値の高い資源国」であり、今の国際環境は行動を起こす好機と映った可能性があります。
まとめ
トランプ政権のベネズエラ攻撃は、
- 麻薬対策だけでは説明できない
- エネルギー資源、とりわけディーゼル燃料
- 中国・ロシアとの地政学的競争
といった要素が重なった結果と考えられます。
つまりこれは、一国への制裁や軍事行動というより、エネルギーと覇権を巡る大国間競争の一局面であり、ベネズエラ情勢は世界経済やインフレ動向とも無関係ではない、という点が重要です。


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