日本維新の会・吉村洋文代表が「年内に1割削減を明記できなければ連立は組まない」と明言。
国会議員の「定数削減」は、長年にわたって日本政治の改革テーマとして語られてきたが、実現のハードルは極めて高い。
この記事では、議員定数削減の実現に必要な法的プロセスや制度上の課題、そして維新が大阪で実際に行った削減の事例をもとに、その現実性と影響を詳しく解説する。


国会議員定数削減の基本的仕組み(プロセス)
国会議員(衆議院・参議院)の定数を削減するためには、以下のようなステップを踏む必要があります。
政党・与党内での合意と政策化
内容:
定数削減を政党や政府の政策、公約として明確に掲げる。
留意点・ハードル:
- 与党内・連立パートナーとの調整が必要
- 反対派議員の抵抗が強い
- 「自分たちの数を減らす」ため政治的ハードルが高い
法律・公職選挙法などの改正案を立案
内容:
削減数や新しい選挙区の仕組みを含めた具体案を法案にまとめる。
留意点・ハードル:
- 公職選挙法や憲法との整合性をとる必要
- 選挙制度の専門的な設計が必要
- 与野党での合意形成が難航しやすい
国会での審議・可決
内容:
衆議院・参議院で法案を審議し、採決によって可決を目指す。
留意点・ハードル:
- 両院で過半数の賛成が必要
- 修正案や附帯決議をめぐる調整が起こる
- 会期内に審議が終わらないことも
選挙区の見直し・区割り変更
内容:
削減後の定数に合わせて、選挙区の再編成を行う。
留意点・ハードル:
- 地域バランスの調整が難しい
- 人口比に基づく「一票の格差」問題との整合性
- 既存議員の選挙基盤が崩れるため反発が強い
次回選挙で適用
内容:
新しい区割り・定数を次の国政選挙に反映させる。
留意点・ハードル:
- 移行期間の設定が必要
- 既存議員の扱いや選挙準備の混乱が懸念
- 国民への周知期間も求められる
このように、議員定数削減は単に「議員を減らす」だけでなく、選挙区割り・地域代表との兼ね合い、法制度の整備など複雑な調整を要するものです。
日本においても、過去に定数削減の実績があります。
例えば、平成12年(2000年頃)には参議院の定数削減、選挙方式の見直しが行われています。
しかし、国会議員定数の大幅な削減は、政治的・制度的・地域的反発を招きやすく、実現は難しいとされてきました。
大阪での議員定数削減の実例:府議会・市議会の場合
吉村代表が主張する「まず政治家から身を切る改革」の一環として、大阪府・大阪市を中心に定数削減が既に実施されており、そのプロセスと実績を見ておくと、国政への適用可能性を考えるヒントになります。
大阪府議会の定数削減
- かつて府議会は 109人 の議員定数を持っていたが、維新主導で 88人へ削減 された時期がありました。
- さらに令和5年4月からは定数を 79人 に改められています。
- この削減により、報酬削減なども併せて実行され、維新はこれを「身を切る改革」の一貫と位置づけています。
これを行うには、条例の改正が必要です。地方議会の定数は「条例」で定められており、地方議会自体が議論し、採決することで変更可能です。
大阪市議会の定数削減
- 2023年6月9日、大阪市議会は 81 → 70人 に定数を削減する条例改正案を可決しました。維新・自民・公明が共同で提案し、反対少数で成立。
- 削減対象は市内24選挙区のうち11区で各1議席ずつの削減。
- この削減は「多様な民意の切り捨て」との批判も受け、反対意見も出されました。
このように、大阪では実際に「議員定数削減→条例改正→報酬削減」など一体的な改革を実施し、一定の成果や議論を得てきた実績があります。
吉村維新が突きつけた「踏み絵」要求とその課題
吉村代表が「議員定数を年内1割削減し合意しないと連立できない」と言及したことは、極めて強い条件提示(踏み絵)といえます。これを国政に持ち込むためには、上述のプロセスが不可欠ですが、特に以下のようなハードルがあります。
主な課題・障壁
- 地域代表 vs 多様性の確保
議員を削減すると、少数意見や地域の声が政治に反映されにくくなるとの懸念が強まります。地方議会削減への反対意見でも「民意の切り捨て」と批判されることが多く、国政でも同様の批判を免れません。 - 選挙区割り調整の難航
削減後の議員をどの選挙区に割り振るかという課題があります。人口比・地域性・選挙区の生活圏をどう調整するかで激しい議論が必要です。 - 与党・野党・連立パートナーとの合意形成
定数削減は政党の議席を左右する利害にも関わるため、与党内・連立パートナー・野党との調整は非常に困難です。特に既得利益を持つ議員らの抵抗は大きい。 - 制度・憲法との整合性
議会制度や憲法が保障する議員制度との整合性を維持する必要があります。削減が画一的すぎれば、法の下の平等や代表性に疑義が生じうる。 - 移行措置・既存議員の扱い
削減が決まった後、次の選挙時点でどの議員を減らすか(新人を除く、選挙区統合、定年制度など)という調整が必要となります。
結論と見通し:実現可能か
吉村維新の要求は強い決意と刺激を含んだ政治メッセージですが、実現には多くの障壁があります。大阪での成功例は地方議会というスケールでの実績であり、国政レベルでは比較にならないほどの制度的・利益構造的な抵抗が待ち受けています。
ただし、次の点から「可能性」が全くないとは言えません。
- 維新は「身を切る改革」を理念として掲げており、実績を背景に説得力を持っています。
- すでに国会レベルでは「参議院定数6減法案」など、定数見直しを議論に挙げる動きもあります。
もし与党・自民党が改革志向を持ち、他党の協力を得られれば、部分的な削減であれば実現の道も開けるでしょう。
ただし、吉村氏が提示した「年内1割削減を合意しなければ連立しない」という強硬な条件は、現実政治の複雑性を考えると極めてハードルが高いと言わざるを得ません。
コメント