近年「台湾有事は日本有事」とたびたび言われます。もし中国が台湾に軍事侵攻すれば、日本の安全保障はもちろん、半導体やエネルギーなど経済にも深刻な影響が及ぶ可能性があります。米中対立の最前線にある日本にとって、台湾情勢は単なる地域紛争ではなく「国家の存続と暮らしに直結する危機」なのです。


台湾有事とは何か
台湾有事とは、中国が台湾に対して軍事行動を起こす事態を指します。中国は「台湾統一」を国家の最重要課題と位置づけ、軍事力を急速に強化しています。一方で台湾はアメリカや日本など西側諸国と連携を深めており、この構図が 米中対立の最大の焦点 となっています。
台湾という国の成り立ち
台湾の位置づけを理解するには歴史を知る必要があります。
- 1945年:第二次世界大戦後、日本が台湾を放棄し、中華民国(国民党政府)が統治。
- 1949年:国共内戦で共産党(中華人民共和国)が中国大陸を支配し、国民党は台湾へ撤退。
- 以来、台湾には「中華民国政府」が存在し、独自の政治体制と経済を発展させてきました。
中国(中華人民共和国)は台湾を「自国の一部」と主張し、正式な独立を認めていません。対して台湾は事実上、独立国家として民主的な選挙や経済発展を遂げており、この「立場の違い」が緊張の根本原因となっています。
背景:台湾が持つ地政学・経済的重要性
地理的要所
台湾は中国沿岸からわずか約160km、最も近い福建省からはフェリーで行ける距離です。日本にとっても近接しており、沖縄から約600km、与那国島からはわずか110km。
もし中国が台湾を支配すれば、第一列島線(沖縄~台湾~フィリピンにかけての防衛ライン)が突破され、日本の安全保障は一気に不利になります。
半導体の供給基地
台湾は世界半導体産業の中心地であり、とくに TSMC(台湾積体電路製造) が世界最先端の半導体の約90%を供給しています。
- TSMCが圧倒的シェアを持てた理由は、国家主導の産業政策と、技術者育成・巨額投資に集中したからです。
- スマートフォン、自動車、AI、クラウドサーバーなど、あらゆる産業が台湾製半導体に依存しています。
シーレーンの要衝
台湾周辺の海域は、日本にとって原油や天然ガスを運ぶ「生命線」であるシーレーン。
- 中国が台湾を軍事的に押さえれば、この海上交通路を封鎖することが可能。
- エネルギー輸入の約8割を中東に依存する日本にとって、これは 経済・生活に直結する安全保障リスク です。
日本への安全保障上の影響
米軍と自衛隊の役割
- 沖縄を中心にある米軍基地(嘉手納・普天間など)は台湾有事で出撃拠点となります。
- 日本は日米安保条約の下、米軍の活動を支援する責任があり、事実上「戦争の前線」に位置づけられます。
- 自衛隊も南西諸島(与那国、石垣、宮古)に駐屯地やミサイル部隊を配備し、対中国防衛を強化しています。
攻撃リスク
- 中国の中距離弾道ミサイルは日本全域を射程に収めています。
- 米軍基地や港湾施設が攻撃対象となれば、日本本土も被害を受ける可能性。
- さらに軍事攻撃にとどまらず、サイバー攻撃や通信インフラへの妨害が想定され、銀行システム・交通機関・電力供給が混乱するリスクも高いです。
国民生活への直結
- 与那国島や石垣島など、台湾に近い地域ではすでに住民避難計画が策定されています。
- 台湾有事は「遠い外国の戦争」ではなく、日本国民の日常に直結する現実的なリスクといえます。
台湾有事の経済的影響
半導体ショック
- 台湾TSMCが供給する最先端半導体は、世界のスマホ・PC・自動車・AI開発に不可欠。
- 台湾有事が発生すれば、世界の供給網が瞬時に混乱し、日本の自動車産業や電機メーカーも大打撃。
- 特にEV(電気自動車)やAI分野の成長が一時的にストップする可能性が高い。
エネルギー危機
- 台湾周辺の海域は、日本が輸入する原油・LNGの通過ルート。
- 軍事衝突でシーレーンが封鎖されれば、日本は深刻なエネルギー不足に陥り、電気代やガソリン価格が高騰。
- すでにヨーロッパがロシア依存からの脱却でエネルギー危機を経験しており、台湾有事でも同様の混乱が起こると予測される。
金融市場への波及
- 有事が勃発すると、株式市場はリスク回避で急落し、安全資産である金や米ドルへ資金が流れる。
- 日本円も「有事の円買い」が一時的に起こる可能性があるが、日本自体が前線となれば逆に円安が進行する懸念も。
- サプライチェーンの寸断によるインフレ加速が、国民生活に直接打撃を与える。
国際関係の構図
アメリカの立場
- アメリカは「台湾関係法」に基づき、台湾に防衛装備を提供。
- バイデン大統領は「中国が侵攻すれば軍事的に防衛する」と明言しており、台湾防衛は米中対立の最前線。
- 台湾有事は、米国にとってインド太平洋戦略の信頼性を左右する重大課題。
中国の狙い
- 習近平政権は「台湾統一」を国内統治の正当性に直結させており、譲れない国家目標。
- 内政(経済減速・社会不満)のガス抜きとして、台湾問題を利用する可能性も指摘される。
- 台湾有事は単なる領土問題ではなく、中国共産党体制の存続にかかわる要素を持つ。
日本の立場
- 日米安保により、台湾有事で米軍を支援せざるを得ない。
- 経済的には半導体・シーレーンへの依存度が高いため、直接参戦せずとも深刻な影響を受ける。
- すでに防衛費を大幅に増額し、南西諸島への自衛隊配備を進めている。
国際社会の対応
- EU:ウクライナ戦争同様、中国の一方的な現状変更に反対。経済的結びつきから慎重姿勢も残る。
- ASEAN:中国との経済依存が強く、立場を明確にできない国が多い。
- インド:中国と対立関係にあるため、台湾有事では西側寄りに協力する可能性。
日本は台湾有事に備えて何をすべきか
台湾有事は「起きるかどうか」ではなく「いつ起きてもおかしくない」と考える専門家も増えています。日本が混乱を最小限に抑えるためには、次のような備えが重要です。
防衛力の強化
- 南西諸島(与那国島・石垣島・宮古島など)に自衛隊の配備を拡充。
- ミサイル防衛や無人機など、新しい技術を活用した防衛システムの整備。
- 米軍との共同訓練を強化し、実際の有事に備えたシナリオを共有。
経済安全保障の確立
- 半導体の国内生産体制を強化(TSMC熊本工場の誘致はその一環)。
- LNGや石油の輸入先を多様化し、中東依存を下げる。
- 重要物資(レアメタル・食料など)の備蓄を増やす。
国民生活への備え
- 南西諸島の住民を対象に避難計画を整備し、全国レベルでのシミュレーションを実施。
- サイバー攻撃に備え、金融機関・電力会社・通信インフラのセキュリティを強化。
- 国民に正確な情報を伝える「危機コミュニケーション」の体制を構築。
外交戦略の強化
- 日米同盟を軸にしつつ、オーストラリア・インド・ASEANとの協力体制を拡大。
- 中国との対話の窓口も維持し、偶発的衝突を防ぐ外交努力を続ける。
- 国連やG7を通じて「台湾有事=国際問題」という認識を共有させる。
最後に
台湾有事は「台湾と中国の問題」にとどまらず、
- 日本の安全保障(南西諸島・米軍基地への攻撃リスク)
- 経済リスク(半導体ショック・エネルギー危機・市場混乱)
- 国際秩序(米中対立の激化、世界の分断)
といった形で、日本や世界に直接影響を及ぼす重大なテーマです。
「台湾有事は日本有事」と言われるほど、私たちの生活と未来に密接に関わる課題となっています。
また、日本にとって 「対岸の火事」ではなく「目前の危機」 です。
安全保障・経済・国民生活のあらゆる面に影響が及ぶため、国や自治体だけでなく、企業や個人レベルでも「有事を想定した備え」が必要になっています。
私たち一人ひとりがこの問題に関心を持ち、「台湾有事=日本の未来の課題」として捉えることが、最大の防衛につながるのかもしれません。
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